
今日の一冊:『午後三時のテーブル』小川ひより 著
読書に、ちょうどいい長さ、というものがある。
小川ひよりの随筆集『午後三時のテーブル』は、そのちょうどよさを丁寧に設計した一冊だ。全30編、どの随筆も1編あたり5分ほどで読み終えられる。長すぎず、短すぎず。コーヒーが冷めないうちに、一つの世界をくぐり抜けられる。
収められた随筆のテーマは、日常のささやかな断片ばかりだ。雨の日に傘を忘れた話、駅のホームで見かけた見知らぬ親子のこと、引き出しの奥に残っていた古い切手。特別な出来事はひとつも起きない。それなのに読み終えると、自分の記憶のどこかが、そっと押されたような感覚が残る。小川ひよりの文章は、静かで、でも確かに体温がある。
当店・KAKERU書房の喫茶スペースで、この本をぜひ読んでみてほしい。おすすめの読み方を一つご提案したい。
注文した飲み物が届いたら、まず一口飲んで、それから本を開く。1編読んだら、ページを閉じて少し窓の外を見る。また一口。また1編。そのくり返しで、飲み物を飲み終えるころには、3〜4編を旅してきたことになる。
この本は、一気に読もうとしなくていい。むしろ、日をまたいで少しずつ読み進めるほうが、各篇の余韻が長持ちする気がする。毎日の「午後三時」に1編だけ読む、そんな習慣のお供にしてもいい。
タイトルの「午後三時のテーブル」とは何か。小川は後記でこう書いている。「誰かと話すわけでもなく、急いで何かをするわけでもない、ただそこにある時間のこと」と。
忙しい日々の中で、そういう時間を持つことが難しくなっている人に、特に手に取ってほしい一冊だ。KAKERU書房の喫茶スペースが、あなたの「午後三時のテーブル」になれたら、スタッフとしてこれ以上うれしいことはない。
(文・スタッフ 中村)